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名古屋高等裁判所 昭和53年(く)46号 決定

少年 T・K(昭三六・二・一一生)

主文

原決定を取り消す。

本件を名古屋家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、記録に編綴された附添人弁護士○○○○名義の抗告申立書及び追加抗告理由書にそれぞれ記載されているとおりであるから、ここにこれらを引用するが、その要旨は、少年において、原決定が認定したような兇器準備集合及び暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の各犯行を敢行した事実は毫もないから、少年が右の各犯行を敢行した旨の事実を認定した原決定には重大な事実誤認の違法がある、というに帰着する。

しかしながら、原裁判所の審判調書の記載によれば、少年は、原裁判所の審判廷において、原決定が認定した所論の各犯罪事実を全部認めて争わなかつたことが明らかであるばかりでなく、関係証拠、就中、少年の司法警察員に対する昭和五三年一〇月二五日付、同月二六日付及び同月二七日付各供述調書並びに少年の本件各犯行に際し終始その行動を共にしたCの司法警察員に対する前同年一〇月一二日付(但し、謄本)、同月一六日付及び同月二三日付(但し、謄本)各供述調書等に徴すれば、少年において、原決定が認定したような各犯行を敢行した事実は明らかであつて疑いを容れない。所論は、少年及び右Cの司法警察員に対する前掲各供述調書がいずれも措信し得ない旨をあれこれ主張するが、右各供述調書の記載内容をそれぞれ又は相互に比較対照しながら逐一仔細に検討しても、これらはいずれも詳細かつ具体的であるのに加えて、爾余の措信し得る関係各証拠ともよく符合しており、その信用性について疑いをさしはさむ余地はないものと認められるから、右所論はとうてい採用の限りではない。その他、所論に徴し、記録を精査検討しても、原決定に所論のような事実誤認の違法は毫も認められず、本論旨はその理由がない。

次に、職権をもつて、少年を中等少年院に送致した原決定の処分の当否について検討してみると、関係記録に徴すれば、本件は、ひつきよう、少年がいわゆる暴走族○○○の構成員であることを背景として敢行した兇器準備集合と暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の案件であるところ、少年はこれまで右暴走族組織の構成員としてそれほど枢要な地位を占めてきたものではなかつたことが明らかであるのに加えて、少年の犯行荷担は前記暴走族の他の構成員らによる強力な煽動、使嗾の結果によるものであることを看取するに難くはないことなどが認められるので、これらの情状に照らすと、少年の本件犯情を目して、これがしかく重大、悪質であると評価することはもとより相当ではないものというべく、以上説示の情状に併せて、少年がこれまで少年法所定の保護処分を一回も受けたことがないこと、さらには、本件共犯者に対する処分の状況その他、少年の保護環境等をも加味して総合考察すると、原決定の説示する諸事情を十分斟酌してみても、少年に対して、いまただちに、たとい短期処遇課程とはいえ、収容保護の途を講ずることは著しく苛酷に過ぎて不当であると認められるから、少年を中等少年院へ送致する旨の原決定は、これを是正するため、とうてい取消しを免れない。

よつて、本件抗告は、結局その理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条に則り、原決定を取り消したうえ、本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 菅間英男 裁判官 服部正明 木谷明)

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